化学メーカーとして合成ゴムや化成品、高機能樹脂などを製造する日本ゼオン株式会社。内製主体でシステム開発を進める同社では、AWS環境構築におけるIaC(Infrastructure as Code)運用の標準化を目指し、クラスメソッドに技術支援を依頼しました。Terraformによる開発・運用の全社共通ガイドラインの策定と、AI駆動開発によるデプロイパイプラインの実装を進めたプロジェクトについて、デジタル統括推進部門の鈴川さんと磯さんにお話をうかがいました。
AI時代を見据えてTerraformによるIaC標準化に着手
1950年に創業し、2025年に創業75周年を迎えた日本ゼオン。1959年に国内で初めて合成ゴムの生産を開始して以来、エラストマー素材の分野で独創的な製品を提供してきました。近年は、高機能樹脂や電子材料など高機能材料の分野にも事業を広げ、さまざまな製品を通じて人々の暮らしを支えています。
企業理念に「大地の永遠と人類の繁栄に貢献する」を掲げる同社は、中期経営計画「STAGE30」において、2030年のビジョンを「社会の期待と社員の意欲に応える会社」と定め、SDGsへの取り組みを通じてビジョンの達成を目指しています。中期経営計画を推進するうえで鍵となるのがDXへの取り組みで、2020年に全社のDX推進を担う組織としてデジタル統括推進部門を新設しました。
DXを支えるITインフラにはAWSを採用し、2023年から全社のシステム基盤をAWSに移行するプロジェクトを開始しました。現在では、ほとんどのシステムがAWS上で稼働しており、クラウドシフトを実現しています。
「AWSのアカウント数は90を超え、サーバーも400台近くに達しています。今やAWSは、日本ゼオンのDXを支える屋台骨となっています」(鈴川さん)一方で、急ピッチでAWS移行を進めたこともあり、AWS環境を構築するIaCは開発チームや担当者が個別に運用している状況でした。同社では、デジタル統括推進部門や事業部門のIT担当が、それぞれ業務部門の要望に応じて内製でシステムを開発しています。利用するIaCツールは適材適所としていたため複数が混在し、管理が複雑化していました。そこで、IaC実行環境をTerraformへ統一し、標準的な運用ルールを整備することで、ガバナンスの強化を図ることにしました。
「今後、AI駆動開発が浸透すれば、アプリケーションの開発スピードが加速することは間違いなく、当社でもすでにその兆候が現れています。しかし、ITインフラがそれに追従できるように高度化していかなければ、継続的なDX推進の障壁となってしまいます。そこでIaCツールを統一し、レビュー基準やコーディング規約を整備することで、担当者に依存せず、短期間で品質の高いITインフラを構築・運用できる仕組みを整備することにしました」(鈴川さん)
クラスメソッドのAWSの内製開発支援やAI開発の豊富な実績を評価
IaC共通基盤の構築と利用ガイドラインの策定に着手した同社は、クラスメソッドに技術支援を依頼しました。今回が初めての取引きでしたが、技術ブログ「DevelopersIO」による情報発信力に加え、AWSの内製開発支援やAI開発の豊富な実績を評価して採用を決めました。
「調べてみると、クラスメソッドはTerraform導入支援サービスを提供していることがわかり、IaCに関する技術支援もお願いできると考えて相談しました。また、将来的にAIを活用したITインフラの構築・運用を視野に入れていた中で、AI分野でもトップクラスの知見を持ち、セミナーやワークショップの開催実績も豊富だったことから、AI活用を支援していただくパートナーとしても最適と判断しました」(鈴川さん)
利用ガイドラインとデプロイパイプラインを2カ月で整備し、余剰工数でAIエージェントを整備
プロジェクトは2026年1月から2月までの2カ月間にわたって実施しました。取り組みは「利用ガイドラインの策定」と「デプロイパイプラインの実装」の2つです。
1つ目の利用ガイドラインでは、同社のAWSガイドラインやセキュリティポリシーに準拠する形で、ベストプラクティスを基にコーディングルールを整備し、ユーザーガイドライン、CI/CDガイドライン、AIガイドラインを策定しました。Terraformで開発するエンジニアの立場でレビューを担当した磯さんは、「初版の段階から完璧でした」と振り返ります。
「AWS環境を安全に構築するための技術的な観点を重視したガイドラインが目的でしたので、作成はクラスメソッドに全面的にお任せし、私たちは自社運用との適合性を中心にレビューしました。作成していただいたガイドラインは最初から完成度が高く、必要な項目はすべて網羅していたため、スムーズに進めることができました」(磯さん)2つ目のデプロイパイプラインの実装では、IaC実行権限の設定やCI/CDパイプラインの設計、GitHub Actionsによる実装を進めながら、共通利用できるテンプレートを作成しました。プロジェクト開始時は開発チームが手作業で設計・実装する予定でしたが、AI開発プラットフォームの「Kiro」を活用したAI駆動開発によって大部分を自動化し、開発期間を大幅に短縮しました。そこで、余剰工数を活用してコーディングエージェントやレビューエージェント、チェックツールなどを開発し、コーディングエージェント向けの設定ファイルやテンプレートを整備しました。
「AI駆動開発に慣れているインフラ担当者が、クラスメソッドに作成していただいたCI/CDガイドラインをKiroに読み込ませたところ、ほぼ完成形といえる環境を構築できました。それが実現できたのは、AIの利用を前提にガイドラインが整備されていたからだと考えています」(鈴川さん)
AIエージェントの活用でIaC運用を高度化
プロジェクトで作成した利用ガイドラインとデプロイパイプライン、AIエージェントは、デジタル統括推進部門のインフラグループ、デジタルセキュリティガバナンス部、そして日本ゼオングループの情報システム会社に展開し、システム開発の現場で活用されています。
「ガイドラインには必要なルールが網羅されているため、開発時にエージェントに質問を投げかければ的確な回答が得られます。作成したコードも、AIに読み込ませてレビューを依頼するだけで簡単にチェックができるため、開発工数を大幅に削減できました。また、Terraformと併せてCI/CDで利用するGitHub Actionsのガイドラインも整備されているため、安全なワークフローを効率的に構築できます」(磯さん)
「グループの情報システム会社にも一連の成果物をセットで展開したことで、すぐに実開発へ適用することができました。グループ会社では、現在進めている大規模なシステム改修案件でコーディングチェックやレビューにAIエージェントを活用しています」(鈴川さん)
プロジェクトの成果としては、当初の課題であったIaC実行環境の標準化と運用効率の向上が実現したことです。また、ガイドラインの整備によってガバナンスやセキュリティの強化も進みました。さらに想定以上の成果として鈴川さんが挙げるのが、AI活用が新たな段階へ進んだことです。
「当初、AIはもう少し先に実現するゴールと位置づけていました。しかし、クラスメソッドからは、施策の中でAIを使うことは『当たり前』という姿勢を感じました。クラスメソッドの提案にはAI活用が随所に組み込まれており、AIエージェントの導入によって一気にAI駆動開発までたどり着きました。IaCやAWSのように広く使われる技術領域にAIが自然に組み込まれ、それが具体的なアウトプットとして得られたことは、想定を上回る成果だったと感じています」(鈴川さん)
IaCで培ったAI活用をアプリケーション開発へ展開
今後は、今回開発したデプロイパイプラインをテンプレートとして全社へ展開し、システム開発者がインフラを意識することなく、AWS環境をワンクリックで構築できる環境を提供していく計画です。
さらに、今回のプロジェクトで培った「AIを活用して安全かつ高速な開発を実現する仕組み」を、DXの中核となるアプリケーション開発にも展開していく計画です。同社では、社内標準の開発言語としてPythonを採用し、各工場や事業部門が自律的にアプリケーションを開発できる環境を整備しています。
しかし、全社展開では開発ルールの統一やガバナンスの徹底が難しく、品質や開発効率にばらつきが生じるという課題があります。そこで現在は、安全なコーディングルールやベストプラクティスを組み込んだ「Python Starter Kit」を開発し、開発者がAIに「Pythonで開発したい」と指示するだけで、必要なテンプレートや開発環境が自動で展開され、安全なコーディングルールに沿って開発できる環境構築を進めています。
「この仕組みは、Amazon EC2上で稼働する既存システムのコンテナ化など、レガシーシステムのモダナイゼーションにも活用する予定です。AIがDocker環境の構築からビルド、実行、動作確認までを自動化することで、開発者はインフラやアーキテクチャを意識することなくモダンな開発を進められるようになります。IaCで培ったAI活用のノウハウをアプリケーション開発にも広げることで、DXを安全かつスピーディーに推進していきます」(鈴川さん)
クラスメソッドに対しては、日々進化し、新しいツールや開発手法が次々と登場するAI技術に関して、豊富な知見に基づくアドバイスを期待しています。
「私たちが実現したいことに対して、どのツールやアプローチが最適なのかを、クラスメソッドが培ってきたノウハウとともに共有していただけるとありがたく思います。変化の速いAIの世界を進むための道標として、これからも伴走していただきたいと考えています」(鈴川さん)
IaC運用の標準化をきっかけに、AI駆動開発に大きく踏み出した日本ゼオン。クラスメソッドは今後も、同社のインフラの高度化とAI活用を支援してまいります。


